コラム介護のお仕事

電ノコと介護

2009.05.26

 私が介護の仕事についてから15年が経とうとしています。
 今は介護現場から少し距離を置いて、介護職員の育成から、車椅子のシートに敷くための板を作る大工仕事まで、非常に手広く(笑)、そして楽しく仕事をさせて頂いています。
(注:車椅子のシートに固めの板を敷くと座った姿勢が安定します。)

 私が介護の世界に飛び込む前は、いわゆる一般企業に勤めていました。もちろんスーツにネクタイというスタイルで。
 その頃「介護の仕事」に対して漠然とイメージしていたのは、『窓から差し込む日差しの中で、お年寄りとくつろぎながらゆったりとお話相手をしている』、そんな図でした。
 ところがいざ介護の仕事についてみると、「忙しい!」の一言。確かにお年寄りに寄り添ってお話をするチャンスはありましたが、それは一日の仕事の中で必ず作れるものと約束されたものではなく、それこそ運がよければあるかも、といった状態。正直イメージとはかけ離れた仕事でした。
 今思えば、勝手に自分で忙しく立ち振る舞っていたんだ、と反省しています。

 日々の仕事の中で文書を作る機会も多いのですが、私は作った文書で不要なものはバッサリ捨てていきます(といっても紙の文書ではなくパソコン上での文書ですが)。
 そんな私が今でもパソコンの中で大事に取ってあるのが、今働いている特別養護老人ホームで4年前の平成17年度に立ち上げた「個別ケア委員会」という会議の議事録です。この委員会は私たちの施設の介護スタイルを大きく変えようと立ち上げた委員会でした。
 つい先日その第1回目の議事録に目を通す機会があったのですが、その中で自分が打ちたてた目標は以下のようなものでした。


1.「ちょっと待って」とお客様に言わない介護
2.職員が廊下を走らない
3.お客様が姿勢をくずすことなく、椅子や車椅子に座っていること
4.お客様のお顔や衣服に食べこぼしの汚れがないこと
5.お客様の爪がきちんと切ってあること


 実はこれ、改めて目を通してびっくりしたのですが、今現在でもこの目標は自分の中で変わっていないんです。と同時に4年も経ってまだ達成できてない!と自分に腹が立ったりもしてますが。
 ただひとつだけ安心したのは、4年前に自分に投げかけた目標をコロコロ変えることなく貫いてきたんだなぁ、ということ。
 もちろん手段はあれこれと変えては来ました。
 この5つの目標の達成のために共通している課題は「時間」です。
 まさに私が介護の世界に当初抱いていた、「日差しの中でゆったり、お年寄りと言葉を交わす」そんな絵柄を実現できるほどに「時間」のゆとりがあって達成できると思っています。
 しかし、この「時間」というのが実に厚い壁で・・・

 私が介護の仕事についたころ、真っ先に特別養護老人ホームの実習に駆り出されました。そこで実習先の職員さんが「この仕事は特別な人でなくてもできるから・・・」とつぶやいていたことを今でもよく覚えています。
 かつては確かにそういう状況だったと思います。特別な知識や技術がなくてもできる程度の仕事、そんな時代もありました。
 でも、今は違って来ています。知識も技術も十分兼ね備えて介護の仕事が行えるのだと。
 私自身の中では、「知識と技術はゆとりの時間を作る為に必要なもの」と位置づけています。知らないため、技術を身に着けていないがために無駄な時間を費やしてはいけないと。そしてもちろん考える力や工夫する努力も求められるでしょう。
 こう言ってしまうとなんだか崇高な仕事のように思う人もいるかもしれませんが、実際は本当に小さなことの積み重ねです。
 車椅子のシートに敷く板を、仕事仲間と電動ノコギリで切り出すという実に地味な仕事もその積み重ねのひとつに違いありません。

 職員が廊下を走ることもなく、お客様に呼びかけられればゆったりと対応し、そのお客様の座る姿も自然。食べこぼしの片鱗もなく、手足の先まで身なりが整っている。お客様全てがそんな風に日々の生活を送れる施設を仕事仲間とめざしています。
 電ノコやドライバーを手に・・・(笑)

 

                  大泉特別養護老人ホーム 介護係長

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